タイトルはそのうち決める

艦これのおぼえがきとか実験装置とかLaTexのメモとか。

メモ スピン系の「ネマチック」 II

たぶん前回、わかってないのにいろいろ書いて悲惨な事になっている。

kuroworks.hatenadiary.jp

とりあえずいくつか論文を列挙する修正メモ。目次も入れてみる。

Contents

 

初めてネマチック秩序を観測した話

2017年の論文。
A. Orlova et al., Phys. Rev. Lett. 118 (2017) 247201.
Phys. Rev. Lett. 118, 247201 (2017) - Nuclear Magnetic Resonance Signature of the Spin-Nematic Phase in ${\mathrm{LiCuVO}}_{4}$ at High Magnetic Fields

ずっとネマチックが出る出ると言われていたLiCuVO4の結果。

パルス磁場(一瞬だけ磁場が出る)で56 TまでのNMRで調べられている。
NMR信号はFIDをフーリエ変換している。
なので、パルス磁場が上がって下がっていく一連の変化の中で複数スペクトルをとっている。

 

NMRで見えないはずのネマチックをどうやってみたかと言うと、「見えなかった」らしい。

具体的には、NMRでは秩序化の度合いを見るためによくスペクトル幅を見る。
秩序化して内部磁場が出ると、スペクトル幅がそれに応じて広がるのである。
ただ、ネマチックではそれがおきないので、NMRでは見えないといわれている。

一方、印加磁場が増大するとスピンがそろっていく。
なので、それに応じてピークはシフト(移動)していく。
論文中ではシフトからスピンの揃い具合を導出している。

ネマチックは磁化飽和(スピンが揃いきる)直前の狭い磁場領域で起きるといわれている。
今回の測定では、その領域において以下の二つが見られたらしい。

https://journals.aps.org/prl/article/10.1103/PhysRevLett.118.247201/figures/3/medium

  1. ピークシフト(~Sz)は磁場印加にしたがって変化し、磁化飽和で止まる
  2. ピーク幅(ΔH)は飽和直前の狭い磁場領域で、変化がとまった。

と言うことで、ネマチックの「見えない」が見えたから観測できたと言う事らしい。

 

ネマチックがおきるために2マグノンが反転しないといけない

M. E. Zhitomirsky and H. Tsunetsugu, EPL, Volume 92, Number 3 (2010)
Magnon pairing in quantum spin nematic - IOPscience

ネマチックがおきるには、励起したときにスピン一個が反転するのじゃダメってやつ。
飽和磁場近傍では二つが一緒に反転する必要があるって話し。
ネマチックの発表でよく見る図が載っている。

これはNMRで観測できるけれど、これが見えたからってネマチックがあるとはいえない。

 

ネマチックTLL

朝永-ラッティンジャー液体のネマチック版。

朝永-ラッティンジャー液体(TLL):

互いに相互作用するフェルミ粒子からなる一次元系(=鎖状の形)。
三次元のフェルミ液体とは異なる性質を持つ量子流体。

出典:理化学辞典第5版

 NMRだと、縦緩和率1/T1の温度依存性がべきで表せるかを見る。

これのネマチック(多極子)版が、ネマチックTLLらしい。
競合鎖(2種の相互作用が交互に並んだ一次元系)において議論されている。
なお、上で書いたネマチック秩序とは違うものである。らしい。

検出方法は、理論的に以下の論文で議論されている。

M. Sato et al., Phys. Rev. B 79 (2009) 060406(R).
Phys. Rev. B 79, 060406(R) (2009) - NMR relaxation rate and dynamical structure factors in nematic and multipolar liquids of frustrated spin chains under magnetic fields

M. Sato et al., Phys. Rev. B 83 (2011) 064405.
Phys. Rev. B 83, 064405 (2011) - Field and temperature dependence of NMR relaxation rate in the magnetic quadrupolar liquid phase of spin-$\frac{1}{2}$ frustrated ferromagnetic chains

NMRの1/T1を測ると、ネマチックTLLと普通のTLLでは温度依存性が全く異なるというもの。
これによって、NMRでネマチックTLLが検出できる。

 

Phys. Rev. Lett. 110 (2013) 077206.
Phys. Rev. Lett. 110, 077206 (2013) - Spin-Nematic and Spin-Density-Wave Orders in Spatially Anisotropic Frustrated Magnets in a Magnetic Field

この論文では、こんなモデルに対して

 

https://journals.aps.org/prl/article/10.1103/PhysRevLett.110.077206/figures/1/medium

 相互作用の値と温度、磁化に対して相図を描いている。

https://journals.aps.org/prl/article/10.1103/PhysRevLett.110.077206/figures/3/medium

私の理解する範囲では、

  • ネマチック秩序は、飽和磁場のちょっと下で起こる。
  • ネマチック秩序があるなら、磁場が下がるとSDW相に入る。
  • なければ低温は全部SDW。
    (なお、NMRではSDWとネマチック秩序は区別できない)
  • ちょっと高温では、低磁場側に普通のTLL、高磁場側にネマチックTLL。
  • ネマチックTLL相から温度を下げていく。
    このとき行き着くのは、ネマチック秩序とは限らない。
    ネマチック秩序が実現しない系でもネマチックTLLは出る。
  • 以下の二つの磁場(横軸方向)はたぶん一致するとは限らない。
    ネマチックTLLと普通のTLLの相境界。
    SDWとネマチック秩序の相境界。

最近、ネマチックTLLが見えたと主張する論文が出ている。

K. Matsui et al., Phys. Rev. B 96 (2017) 220402(R).
Phys. Rev. B 96, 220402(R) (2017) - Rb-NMR study of the quasi-one-dimensional competing spin-chain compound $\mathrm{R}{\mathrm{b}}_{2}\mathrm{C}{\mathrm{u}}_{2}\mathrm{M}{\mathrm{o}}_{3}{\mathrm{O}}_{12}$

この系ではネマチック秩序はないであろうと言う事らしい。
なので、ネマチックTLLの下の温度域は普通のSDW相っぽい。
どうせNMRでは見えない(と思う)。

 

ネマチック秩序をNMRT1で見ようという話

A. Smerald, N. Shannon, Phys. Rev. B 93 (2016) 184419.
Phys. Rev. B 93, 184419 (2016) - Theory of NMR $1/{T}_{1}$ relaxation in a quantum spin nematic in an applied magnetic field

最近出たもの。
これができればNMRでネマチック秩序が見えたって言える。
でも、パルス磁場中のNMRでT1測定を実現した例はいまだない。
理論の難しい論文だからあんまりちゃんと読めていないけれど、たぶん以下の通り。

  • 測定は結晶の特定のちょうどいい方向に磁場をかけて行う必要がある。
  • 上手くやると、ネマチック秩序に入る相境界が見える。
    どう見えるかというと、1/T1がステップ上に変化しかつシャープなカスプ。
  • でも、いわゆる臨界発散はしない(下図)

https://journals.aps.org/prb/article/10.1103/PhysRevB.93.184419/figures/1/medium

 

 特定の方向ってのがたぶん大事だ。。

常伝導磁石で実現できる磁場域でネマチック秩序が出る系があれば確かめられるのだが。

 

定期的に前の記事にアクセスがあるが、いったいどんな人が見ているんだか。。